構造解析


10万種と予想される遺伝子DNA、その働きを調節するDNA、複製の開始や終わりを制御 するDNA、その他まだ機能のわかっていない様々のDNAは24種類の巨大DNA分子の上に 天然に決まった位置を占めています。そしてこれら24種のDNAは各々1番から22番、X 、Yと名付けられた染色体の中に畳み込まれており、必要な時に必要な領域が必要な だけ未知のやり方で選ばれて働かされるようになっています。そこで真っ先に必要な のはこれらのDNAがどの染色体のどこに存在しているかを決める作業です。これをマ ッピング(地図作り)と呼びます。例えば色盲や血友病、FraXシンドロームなどの疾 病に関わる遺伝子は男性にのみ発病することから性決定に関わる遺伝子群を担う染色 体DNAに存在すると予測され、実際にX染色体上にあることが示されました。この中で FraXはX染色体の中でも長腕の端近くに起こる形態的変化と関連があることからその 部位にマップされました。

一つの遺伝子の位置が決まると、他の遺伝子はそれとの関連が強いか弱いかによって、 その近くに、あるいは遠くにマップされます。こうして作る一次元の地図を遺伝的地 図と呼びます。二人の人について、同じDNAの領域を調べてもDNAの文字配列が異なっ ていることがしばしばあり、多型DNAと呼ばれていますが、これも同様に遺伝子マッ ピングのマーカーとなる。こうして現在、約4000?の遺伝子や多型マーカーが染色体 DNAのどこに配置されているのかを決めた遺伝的地図が作られている。ゲノムの構造 解析ではこの地図をさらに緻密化し、また、多くの遺伝性疾患やがん、循環器疾患な どに関与する遺伝子の座位を地図に加えて将来それらの研究を容易にすることが重要 です。

これとは別に、ゲノムのDNA を生化学的な方法で断片化して、それを一つずつ別々に 大腸菌や酵母菌の中で増やし(これをクローニングと呼びます)、そのDNAがどの染 色体のどこに由来するのかを決めるやり方もあります。DNA断片のかわりに制限酵素 の認識配列を使うこともあり、ひっくるめて物理的地図作製と呼ばれています。なる べく詳細な物理的地図をゲノム全体にわたって作ることが将来の文字配列決定の前提 作業であり、また、重要な未知の疾患遺伝子を取り出して研究する上でも鍵となるの で、各国が最も力を入れています。クローニングするために必要な良いベクターの開 発や、クローンの性質をすばやく解析する方法論、クローン化されたDNAが染色体DNA のどこに由来するかを迅速に決めるin situハイブリット形成法など、技術開発も欠 かせません。

一口で言えばヒトゲノムの構造解析は様々な技術開発を進めつつ、当面できるところ からどんどん遺伝的・物理的マップを作っているのが現状です。ゲノムDNAの全領域 をクローン化したDNAでカバーする------つまり、ゲノムの任意の部位を調べたい時 、必ずそこのDNAがすぐに入手でき、しかもすでに分類、整理されているという状況 を作れば、構造研究は第二期に入るでしょう。その時期は2〜3年後に近づいています 。以下のレポートに見るように我国ではいくつかの優れたチームが構造研究に貢献 をしています。

我国では疾病に関わる遺伝子の研究はこれまであまり力強くなかったが、遺伝病家系 の収集、関連研究者の連絡強化とレベルアップにつらなる努力も、ゲノム研究をきっ かけに進み始めました。