生物学と物理学

 物理学と生物学はそれぞれ自然界と生物界の不思議を解き明かす学問です。しかしながら、この2つの学問分野にはコンピュータに対する考え方の大きな違いがあります。宇宙の起源であるビッグバンをコンピュータで計算をしていると言えば立派な物理学の研究ですが、生命の起源をコンピュータで計算していると言えば生物学者から笑われてしまいます。一般の生物学者にとって、計算が作り出す世界と実際の生き物の世界は全く相容れないものなのです。物理学では理論計算で新しい素粒子が予測され、実験で検証されてきました。一方、生物学の計算には現状ではこれほどの予測能力がありませんので、生物学者がコンピュータ自体に不信感をもつのも無理はないかもしれません。しかし、計算で予測できないのは生物学が未だに枚挙の学問で、経験的な知識が原理として体系化されていないからであって、生き物だから計算できないのだといった固定概念で片づけてしまうのは危険です。

 物理学は17世紀に大きな発展をしました。星の運動を天体観測で経験的に知り得た時代から、ニュートン力学により星の運動を予測できる時代になったのです。生物学では20世紀の終わりになって各種生物のもつゲノムDNA塩基配列を読みとることができるようになりました。いい望遠鏡ができて細かに天体観測ができるようになった17世紀に物理学が大きな発展を遂げたように、生物学もいま大きな発展を遂げつつあります。生命の原理を体系化し、生命を計算することも、21世紀には夢ではありません。

物理学と生物学
 物理学  生物学
対象  自然界
宇宙の起源(130億年)  
生物界
生命の起源(40億年)
構成粒子  素粒子(物質の構成粒子)  分子・遺伝子
相互作用  素粒子(力の伝達粒子)  分子間相互作用
国際共同研究  大型加速器  ヒトゲノム計画