オリゴヌクレオチド・フィンガープリントを用いたゲノムDNAクローンの整列

東京大学教養学部物理学教室

陶山 明

目標

世界旅行をするには世界地図が必要であるのと同じように、ヒトゲノムの解読の探究に出発するにはコンティグ地図というゲノム地図が必要です。しかし、ヒトゲノムは長さが30億塩基対と巨大であるために、既存の方法でコンティグ地図を完成させることは事実上不可能です。その地図の完成には、巨大ゲノムに適した根本的に新しいコンティグ地図の作製法が必要とされます。

 巨大ゲノムのコンティグ地図を完成させるには、大量のゲノムDNA断片を処理しなくて はなりません。したがって、地図の作製には、機械による自動化が可能であり、しかも高速でコストのかからないな方法が必要とされます。また、百万塩基対を越える、長いゲノムDNA断片に適用できることも必要です。

 この研究では、

を目指しています。

成果

(1)コンティグ地図を作製するための新しいアルゴリズムを開発しました。

 MOF 法は、ランダムな塩基配列をもつオリゴヌクレオチドとゲノムDNA断片をもつクロ ーンとのハイブリダイゼーションにより得られるフィンガープリント (OF: Oligonucleotide Fingerprints) からコンティグ地図を作製する方法です。OFは、オリゴヌクレオチドを用いて調べたゲノムDNA断片の指紋と考えることが出来ます。我々は、このあまり情報 量の多くない指紋を手がかりにしてコンティグ地図を作製するための新しいアルゴリズムを開発しました。大腸菌の1/10の大きさをもつ長さが470キロ塩基対の人工ゲノムを用い て、コンピュータ・シミュレーション実験によりMOF法の評価を行なったところ、OFが多 少実験誤差を含む場合であっても正確なコンティグ地図が作製できることがわかりました。

(2)実験方法を新たに確立しました。

 MOF法では約100個のオリゴヌクレオチドについてOFを測定することが必要です。したがって、OFの測定速度がMOF法の効率を決定します。そこで我々は、

 この実験方法を用いると、試算では、10台の機械を用いて1年間でYACコスミド(あるいはP1ファージ)ライブラリーについてヒトゲノムのコンティグ地図を完成させることができます。

 現在、大腸菌のゲノムを用いてMOF法の評価実験を行なっています。その成果をもとに 、MOF法による地図作製のための自動化機械をつくり、ヒトゲノムのコンティグ地図の完 成を目指す予定でいます。


参考文献

陶山 明:ゲノムマッピング ((1993) 数理科学 359, 74-81