ポスト・ゲノム解析へむけて


 1980年代の終わりに始まった「ヒト・ゲノム計画」は、生命の基本データであるゲノムを、ヒトからバクテリアまで様々な生物種においてシステマティックに解析する計画です。すでに、パン酵母、大腸菌、枯草菌などのゲノムは解読されたと発表されています。また、2003年頃までには30億塩基のDNAに書かれたヒトのゲノムも解読され、10万の遺伝子がすべて見いだされると予想されています。

 ゲノム計画は、「生命の設計図」を明らかにする計画だと言われています。では、パン酵母のゲノムは解読され、6000の遺伝子がすべて見いだされたのだから、パン酵母の設計図は分かったのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。ゲノムを解読したとか遺伝子を見いだしたとか言っても、それはあくまで配列(一次構造)を決定したことであり、直ちにすべての遺伝子の働き(機能)が明らかになったわけではありません。実際、パン酵母では 1/3 程度の、メタン生成菌(古細菌)では半分以上の遺伝子が、機能未知のままになっています。

 さらに、遺伝子や遺伝子産物(タンパク質とRNA)は生命を構成する部品でしかありませんので、個々の部品の働きが分かっても、生命の全体的なシステムとしての働きが分かるわけではありません。部品がどのようにつながっているのか、すなわち部品間の結線図が解明されなければ、本当の意味で生命の設計図を読みとったことにはならないのです。

 ゲノム解析からポスト・ゲノム解析へ向かう重要なステップとして、部品間の結線図に相当する遺伝子間相互作用やタンパク質間相互作用を、システマティックに解析し明らかにしていくことが必要です。すでにパン酵母では、6000 の遺伝子を系統的に破壊してその影響を調べる研究や、6000 x 6000 のタンパク質間相互作用を系統的に調べる研究(Protein linkage map)が始まっています。