すべての生物はゲノムを持っています。

 動物細胞(真核生物)の例
 地球上には色々な生物がいますが、あなたはどのくらいの数の生物を知っていますか。ライオン、ゾウ、ウシ、ウマ、クジラ……。ツバメ、スズメ、ツル、カメ、ワニ、カエル、ヘビ……。タイ、サンマ、イワシ、カレイ、ブリ、フグ……。カブトムシ、クワガタ、テントウムシ、アゲハチョウ、カマキリ……。タコ、イカ、ナマコ……。ムカデ、ヤスデ……。スギ、マツ、カエデ、ケヤキ、キリ……。イネ、ムギ、ソバ、サツマイモ……。地球上にどのくらいの数の生物がいるかは誰も知りません。ただ身体の小さい生物ほど、多くの種類があるということが分かっています。大きさと種類の数の間の関係から、地球上にはおよそ数千万種類の生物が生息しているのではないかと考えられています。しかも、上に名前を示した生物を想像しただけでも分かるように、実に様々な姿・形をしています。これらの生物はそれぞれのゲノムを持っていますが、生物の多様性はそれらのゲノムの違いによって引き起こされているのです。
 生物の進化の過程では、大きな変化が何回も起こったと考えられています。最初で最大の変化は、生物の誕生です。しかし、これについては、まだほとんど分かっていないといってもよいでしょう。次に、核のない生物(バクテリアなどで原核生物と言われます)から、核のある生物(酵母からヒトまでを含む多様な生物で、真核生物と呼ばれます)が進化しました。その次に起こった大きな変化が、単細胞生物から多細胞生物への進化です。
 例えば、単細胞生物から多細胞生物が生じたときに、一体何が起こったのでしょうか。多細胞生物では、性質の異なる細胞がお互いに協調してシステムを構成しているわけですから、単細胞生物にはない新しい機能が付け加えられたことは間違いありません。単細胞生物である酵母と多細胞生物であるヒトを比べると、ヒトの方がゲノムの大きさがかなり大きいことが分かっています。このことはしごく自然なことで、多細胞生物のゲノムの情報から単細胞生物のゲノムの情報を引き算すると、多細胞生物が生まれるのに必要な遺伝情報が分かるかもしれません。それと同じように、酵母のゲノムから大腸菌のゲノムを引き算すると、真核生物と原核生物の遺伝情報の違いが分かると考えられます。このように、ゲノムの研究から生物科学で最も基本的な問題が解決されると期待されています。
 しかし、まずは様々な生物のゲノムの情報が完全に解読されなければ、ゲノムの引き算も不可能です。そこで、ヒトを始めとした様々な生物のゲノムを解析するためのヒトゲノム計画が現在進行しています。バクテリアなどのより単純な生物の中には、ゲノム全体がすでに解読されているものがあります。そして、ヒトのゲノムも21世紀の初めには完全な解読が終わると考えられています。これによって生物の神秘もそのベールを脱ぐことになるでしょう。生物科学者達はわくわくしながら研究を進めているところなのです。