ヒト・ゲノム解析計画の全体像

我が国におけるヒト・ゲノム解析の長期基本計画

 ヒト・ゲノム解析研究を我が国ではどの様に進めるべきかという基本計画の具体的 なプランが、「ヒトゲノムプログラムの推進に関する研究」班(文部省科学研究費総 合A、代表:松原謙一・大阪大学細胞工学センター教授)によって提案されています 。そこでは、平成3〜7年度の5年間を第一期研究として研究環境の整備と基礎研究 を推進することと、これを引き継いで平成8年度からの本格的研究(第二期)を設定 するのが妥当だろうとの内容が中心になっています(「我国におけるヒト・ゲノム解 析の推進に関する調査研究」、平成2年10月)。文部省はこれを受けて、新プログ ラムによるヒト・ゲノム解析研究を発足させることになりました。

文部省新プログラムによるヒトゲノム解析研究

 ここでは、まず平成3年度から始められた文部省新プログラムによるヒト・ゲノム 解析研究が、全体としてどの様な構成で進められているかを説明します。次いで、これ までの研究で具体的にどの様な成果が生み出されているかを見ることにします。新プ ログラムによるヒト・ゲノム解析研究は、上記調査研究の提案に沿って平成3〜7年 度の5年間の予定で、ヒト・ゲノム研究を本格的に進めるために必要な研究環境の整 備、国際協力体制の確立、研究者養成に配慮を払った形で基礎的研究を推進させるこ とを目的としています。このため

  1. 基礎的研究の推進(グループ研究)
  2. ヒトゲノム解析センターの設置
  3. ゲノム研究組織の整備拡充
  4. 国際交流 の推進
  5. 研究者の養成
が5本の柱として設定され、各々は下記のような内容で 進められています。

(1)グループ研究

ヒトのゲノムは構造的に巨大であるばかりでなく、その中に莫 大な量の生物情報を含んでいます。このような巨大分子の解析を目的とする研究を進 めるためには、これまでにはない新しい思考法や方法論の発展、解析技術の高効率化 、大量情報の処理解析システムの確立など、広い領域にまたがる研究者の相互協力が 不可欠です。そのために多方面の研究者から構成された研究グループを組織し、研究 を総合的な見地から進めることが図られました。現在のところ、ヒトゲノム構造解析 グループ、ヒトゲノム機能解析グループ、ゲノム解析技術開発研究グループの3グル ープと、科学研究費重点領域研究として並行的に推進されているゲノム情報解析研究 グループが組織されています。そして、第一期の基礎的研究を進めながらワークショ ップなどを開催し、研究者間の相互理解や情報交換に努めています。また、ヒト・ゲ ノム研究と社会との接点に関する研究や、ニュースレターの発行による広報活動も行 われています。各研究グループの具体的な研究目標とこれまでの成果は次節で紹介し ます。

(2)ヒトゲノム解析センター

ゲノム研究環境の整備を円滑に進め、より広い範囲 を対象とした本格的ヒトゲノム解析研究に対処するための準備を滞りなく行うには、 各種の研究活動を情報、研究資材の両側面から支援する組織が我が国で活動している ことが必要になります。また、ゲノム研究は国際的な協力も求められているので、こ の新組織は、そのための対応をとる中心としても機能せねばなりません。ヒトゲノム 解析センターは、このような研究支援とそれを遂行する上で必要な先端的研究を行う 目的で計画され、東京大学医科学研究所に設置されました。現在実験系1部門と情報 系2部門の設置が認められており、組織ならびに設備の整備が進められています。

(3)ゲノム研究組織の整備拡充

一方、ゲノム研究の発展に対応するためには、コ ンピュータサイエンスや分子生物学的手法を駆使できるゲノム研究者の絶対数の増加 を図る必要があります。これには、ゲノム研究の中核となる組織を全国規模でいくつ か設け、そこを拠点として周辺研究者への情報提供や技術伝達などを行わせるのが有 効な方法と考えられました。このため、各地の遺伝子解析施設などにゲノム解析分野 を設置し、研究と共に技術講習会などの教育訓練を行うことが計画されました。現在 までに、九州大学、京都大学、大阪大学の各遺伝子研究施設にゲノム解析分野の設置 が認められており、活動が始められています。

(4)国際交流の推進

 研究の進展に応じて各研究課題ごとに国際シンポジウムやセ ミナーを開催し、国際的情報交換や国際協力が円滑に行えるようにしています。また 、これ以外に各種の国際調整を行う国際的委員会への参画、各国におけるゲノム研究 推進の方策や新技術に関する調査研究、国際ワークショップの企画、HUGOなど国際的 協調機関への貢献などが必要で、グループ研究の総括班やヒトゲノム解析センターが その中心となっています。

(5)研究者の養成

ヒトゲノム解析研究にとっては、研究内容の進展に対応して広 い領域から既成研究者のゲノム研究領域への流入を図ると共に、若い研究者の養成と その活躍を助けることも重要な課題です。また、国際的に協調を保って研究を進める ことが強く求められていることから、日本学術振興会の協力のもとに国内外から特別 研究員、外国人特別研究員を採用しています。